DMO(観光目的地マネジメント組織)に関する 地域経営の視点からの分析

並木 亮諭

Abstract


【1】日本は現在、人口減少及び低成長の局面を迎えており、首都圏を除く地域の経済は縮小 を続けている。そのため、政府は、外からの富の流入を促す策として交流人口の拡大を図った 観光立国を提唱、様々な取り組みが多くの地域で始められている。一方、政府は長年の懸案で あった地方創生をめざし策定した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の方向性の一つとして 日本においても 2015 年にDMO法人登録制度が導入された。この組織の基本的な目的は地域 の「稼ぐ力」を養うためのブレーンとなることであり、地域振興への寄与が望まれているもの である。その後、DMO候補法人は着実に増加を続け現在は 130 を超えるまでに至っている。 【2】DMOとは Destination Management Organization の略で、観光目的地マネジメント組織 のことである。各定義を分析した結果、以下の2つの特長が必ずあることがわかった。1)【着 地性】地元主体ということ。2)【マーケティング力・経営力】専門的人材が地域(観光)の 振興を目的としたマーケティングやマネジメントを行う地域(特に観光分野)における頭脳で あること。これは、D(デスティネーション=着地性)+M(マネジメント=マーケティング 力・経営力)に対応し、合理的である。着地性は旧来の観光協会も備えているので、DMOは マーケティングやマネジメントなど高度な専門性を要する業務を行うものとされている。そ の違いは、マーケティング・経営力(M)ネットワーク力である。本研究ではその分析をおこ なった。 【3】(DMOの分類論)(1)登録分類は、「広域連携DMO」「地域連携DMO」「地域DM O」である。(2)地域分類は、長野県、群馬県、北海道が多い。(3)組織分類は、本論のオ リジナルで(A型)新設、(B型)観光協会以外の組織からの改組、(C型)観光協会そのもの の改組と設定した。(4)事業分類は、「交通」「インバウンド(外国人対応)」「食・農」「広域 周遊」「イベント」「旅行商品造成」「地域産品」「情報発信」の8項目である。 【4】事例としては、近江ツーリズムボード、しまなみジャパン、せとうちDMO、海の京都 DMOを検討した。 【5】(収入構成モデル)(1)ここで、日本のDMOの収入構成モデルを提示する。(タイプ 1)まず、ほとんど公的補助からなっているタイプ:B型(観光協会以外の団体からの改組) である「せとうちDMO」がある。これは多数の県からなる広域型のため、存在意義はあると 考えられる。(タイプ2)次に、公的補助の他、会員収入をもち、一定の自立性があるタイプ: B型(観光協会以外の団体からの改組)である「近江ツーリズムボード」や、C型(観光協会 の完全改組型の「海の京都」がある。近江は会員で健闘している。域内各市町の観光協会を統 合して組織する全国初のDMOである海の京都は、中枢である総合企画局と旧観光協会であ る 7 つの地域本部で成り立っている。地域本部観光協会の統合により、もともとの会費シス テムをもち、非常に安全である。(タイプ3)3番目は、自主事業があるタイプ:A型(事実 上の新設)である「しまなみジャパン」がそれで、市から譲り受けたレンタサイクル事業や、 イベント事業などの自主事業をこなす。(2)これに対し、欧米のDMOの収入構成モデルを 提示した。もちろん、欧米のDMOでも、イニシャルでは、公的補助にたよるところが大きい。 ところが、日本との一番の違いは、その後の成長過程がダイナミックで、自主財源事業を見事 に拡大しているところにある。1会費収入、2自主ビジネス、3特別な税などである。これは、 一種の観光目的税の形をとる「TID(観光改善地区)」や宿泊税などの地域負担金で運営さ れる点が大きい。これは、日本は、かつて都市計画分野で導入されたBID(ビジネス改善地 区)制度と同じ課題がある。日本では地域負担金を税の形でとることが財務省等の制約の問題 でほとんど不可能なため、BIDのほとんどにこのような地域負担金のシステムをつくれず 失敗した。今回もTID的システムを入れないとBIDの二の舞になる可能性がある。日本で 可能性があるのは「入湯税」「宿泊税」などである。 【6】(事業分担マトリックスモデル)横軸に、観光協会の改組であるかそうでないか、縦軸 に、広域か地域か、をグラフ化すると、「観光協会の改組」なら、分担問題は発生しない、「広 域」なら、分担問題は発生しない、のだから、このどちらも成り立たない場合、すなわち「観 光協会と別の改組」でありかつ「地域」のものである場合、観光協会とのバッティング問題が 生じることになる。マトリックス左下がこの分担問題が生じる場合で、しまなみと近江が苦労していることがわかる。観光協会ができにくく、DMOが分担すべき分野とは、「情報発信」 「インバウンド」「製品開発」「とがったコンセプトによるプロモーション」「調査分析」など である。 【7】(まちづくり連携モデル)近江「美食都市」推進プロジェクト事業を、サンセバスチャ ンなどの本場のラテン系都市における美食都市戦略と比較すると以下の2点が今後の可能性 である。(戦略A)(空間的視点)欧米の美食都市は、まちなかで食を楽しむ飲食店の充実があ る。この点はまちづくり計画と連携すべき。(戦略B)(時間的視点)欧米の美食都市は、時間 的にも、夜のにぎわいが中心であり、そのようなナイトライフ戦略が重要。 【8】(モデルの統合) 最後に、分担問題の有無と、自主財源からマトリックスをつくると、 自主財源があり分担問題がないのが「海の京都」である。自主財源があり分担問題を回避しよ うとがんばっているのが「しまなみ」「近江」である。しかし、「近江」は、今後まちづくりと の連携の課題もあり、これは今後の展開を見守ることである。現時点で、調査した西日本の有 名なDMOの中で、有望なのは、タイプは異なるが、「しまなみジャパン」と「海の京都」で はないか?


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